テッド・チャン情報メモ

SFマガジン2010年3月号 テッド・チャン インタビュウ 感想
(2010/1/25)
というか、読んで頭をよぎったことをつらつらと。内容のご紹介にはなってないような。なんか散漫ですみません…。(^^;)
関係ないですが、なんで「インタビュー」じゃなくて「インタビュウ」という表記なんだろう?ワールドコンのときもそうでしたね。

…とくに新しいテッちゃん情報、というのは少なかったようですが、お話はどれも興味深かったです。韓国でやったという講演会、日本でもやってくれないかしら。

( …インタビューは、質問部分だけが「ですます調」に翻訳されてるので、タメ口で答えてるチャンせんせがエラそうに見えました(笑)。実際はたぶんタメ口同士のノリだったんでしょうね。(英語ですし)まあそれはどうでもいいとして…)

●ペンローズ
ほっとひと安心(?)したのが、ペンローズの主張(人間並の意識をもったAIは作れない)は正しいとは思っていない、と断言していたこと。いや、書いた作品から推測して、賛同しているはずがないとは思っていましたけれど。・・・『息吹』のインスパイア元のひとつとしてペンローズの『皇帝の新しい心』をあげていたんですが、インスパイアされたのはそのなかのエントロピーに関する議論、だけでした。
テッちゃんせんせ自身のAIについての考え方が細かく聞けなかったのは残念。どうも、そこを話すと新作のネタばれになっちゃうみたいですね(笑)。新作読むのが楽しみです。

この、ペンローズのエントロピーの議論がインタビューで出ると予告があったので、「そこんとこだけでもちらっと予習しとこうかな」と図書館で『皇帝の・・・』を借りたのですが・・・。私には「ちらっと」拾い読みできるようなシロモノではなくて(笑)、最初のほうはがっつり読むはめになりました。そのあとズルをして、結論ぽいところを読んで、あとは面白そうなところに戻って…読もうとしたんですが、結局時間切れでエントロピーのところは読めないまま返却しました。でも要旨はインタビューのほうで話してくれてるので、予習は不要でしたね。

●ここはほとんど『皇帝の新しい心』の感想です(^^;)
…『皇帝の新しい心』が読みにくかったのは、扱ってるもの自体がメンドクサイのももちろんあるんですが、(…今書くと後知恵みたいでいやなんですが)やはりペンローズの主張自体があまりなじめなくて・・・。 というか、「今のコンピューターと人間は考え方が違う」「将来、意識のあるAI はできない」イコールでない気がするんです。また一方で、「アイデアとしては可能」と「実際に作られるかどうか」もかなり別に感じられます。そこは科学技術と同時に、やっぱり経済とか、人類そのもののメンタリティーとかの話になってくると思うんですが(単純に、今の経済形態では、お金が流れこむ必然性がないとたいていのものは実現されないから)。でも経済がらみになると、SF・科学ネタの俎上には乗りにくいんですよね。経済を含んだ視野で、「意識をもった人工知能が必要とされるだろうか?」「必要とされるとしたら、どんな、どの程度の意識が求められるんだろうか?」…とか、「違う経済形態のもとではどうなるだろう」とか考え出すと、けっこう面白い気がします。

…とにかく、『皇帝の新しい心』を読んだときは、自分の興味が「人間の意識そのものについての仮説を聞くこと」にあったので、現代科学のいろいろ難しいレクチャー大会、みたいだったのが、ちょっと肩すかしな感じがしたんですね。それぞれのレクチャーが、主張の部分とどうつながるのかが見えにくくて。(肩すかしのわりにはものすごく時間かけて真剣に読まないと理解できないし(^^;))うーん、アタマのスタミナが不足でした。残念。やっぱり読むとしたら、図書館借りじゃなくて手元に置いてじっくり、のほうがいい本みたいですね。(高いけど…洋書だと安いのになあ!この高さのせいで読者にとって「へんな価値」までついちゃってるんじゃないかしら)

でも、冒頭のアルゴリズムについての解説は、二進法の暗号化(?)部分もいちいち解読しながら読んだおかげで、「コンピューターの「考え方」は人間とは違うし、コンピューターはけっして「頭がいい」わけではない」というのがすごくよく理解できました。ほかの部分も真剣に読むと得るところが大きそうなんですが、私にとっては教科書を読むのに近い感じが(^^;)。根本的に主張の違う(つまり「人間並のAIは可能」派の)別のポピュラー・サイエンスを読みだしてしまい、そっちのほうがおもしろいし扱われているトピックも最新なので、ちょっと今のところ再読はなさそうです。興味がマイクロチューブル(その後ペンローズが立てた仮説で、脳内の意識のありかとして出てくるモノ)で止まってしまいました…。

(ここではたと思ったんですが、「賢い」「人間みたいな意識をもってる」イコールなんだろうか?人間は矛盾を内包するものだから、「人間並の意識」って必ずしも「賢く」ないような気がする・・・)

●コンピューターと、今の小学校の算数
…そういえば…となぜか思い出しちゃったんですが、以前、小学生の子供がいる友人から「今の算数の教え方って私たちのころと違うんで驚いた」という話を聞きました。私たちから見ると「そんなことやったらかえって面倒じゃん!」なんですけど、聞いた印象としては、「手順の数を増やして、一つ一つの工程でやることはすごくやさしくしている」・・・という感じでした。

これって、コンピューターにやらせてることと近いんではないかと。つまり、今のお子さんたちは、「古典的コンピューターのアルゴリズム」的な考え方を身につけるように教育されているんではないかと。これを当たり前として大きくなると、彼らにとって将来コンピュータープログラムを書くのはすごく簡単なんじゃないかな。似たような「思考回路」が形成できているから。今の私たちだと、「人間型」で考えてる行程を分解して、「コンピューター型」の思考・・・アルゴリズム・・・で表現できる単位ずつにまとめていく、という面倒な翻訳作業をしている感じがします。(プログラムの経験はありませんので、一般向け書籍から得た印象ですが)

ただ、それは将来も今の「古典的」コンピューターのやり方が続くと仮定しての話。もし人間の意識のあり方がもっと解明されて、それがコンピューターに応用されれば(当然されますよね)変わるかも。あるいは「意識」と「計算」は用途としてきっちり住み分けされるのかも。
(今話題になってる「量子コンピューター」は、一般向け解説記事を読んだ限りでは、たんに「処理速度が飛躍的にあがる」だけのことで、コンピューターの「考え方」自体が変わるものではないようですよね…。もちろんこれから加えられる知識でアプローチが変わってくるでしょうけれど)

●・・・話をテッちゃんせんせに戻しましょう。
2007ワールドコンのインタビューでも言っていたことですが、シンギュラリティーを否定している、という話がまた出てきました。
(シンギュラリティーについては、Wikipediaの「技術的特異点」に解説があります)

シンギュラリティーといってもいろんなとらえ方が出来るみたいですが、これを「人間より賢い人工知能が出てきて人類は追い越される」みたいな、創作作品ではよく出てくる「おっかない」ものとして考えた場合(というか、私はそういうイメージなのですが)…それを否定しているのは、すごくの溜飲が下がります。(笑)

なにか新しい科学ネタのアイデアを得たとき・・・たとえばここで出ている例だと、「人間より賢いAI」というモチーフを得たとき・・・そのアイデアを元にして、できるだけダークで悲観的で戦闘的な、「おっかない」展開をいろいろ考えてみよう♪・・・というところで興じてるみたいなへんなバイアスを、今のSFというジャンルに感じるんです。まあ、単純に需要と供給なのでしょうが。(端的にいうとオトコノコ向けマーケット、ということがあります。真面目な未来予測とエンターテインメントは市場が違うので、そのへんは割り引く必要があると思います
・・・シンギュラリティーの「おっかない」タイプの概念も、私の目にはそのバイアスの落とし子の一つに見えます。科学の進歩や人間の進化を肯定的に描くのは時代遅れなんですね。流行といってしまえばそれまでですが、それに食傷してくると、これがなんとも窮屈に思える。中学、高校あたりではかっこよく思えましたけれど。

テッド・チャンの作品もダークな世界観のものはあるんですが、不思議とそういう窮屈さは感じません。むしろ解放感がある。視点が「今のSF」のバイアスを超えたところにある感じがするんです。仲間内でしか通じない「流行の隠語」では書かれていないというか。そのへんが、パンピーとしては取っつきやすくて好きです。そして根本的なところに理性と美、あと色気(エロ気じゃなくて)があるんですよね。(笑)

それと、発表先は考えずに書く、という話も出てきました。これは創作としては理想的・・・。たしかアメリカの作家さんはエージェントを通して出版契約を結ぶらしいんですが、話を聞いてると、チャンさんはフリー(?)なのかな。(過去のいきさつをみると理解できるんですが、そういうやりかたが可能なのかどうか知りません)
締め切りをいいわけにしない姿勢。そういうあり方があり得るんだ、というのが、とても大事な情報です。(同人イベントでさえ「締め切り」扱いしている自分のなんと情けないことよ!(^^;))

…お好きな映画の名前がまた出ていました。未見作品なのですが、自分はあえて見なかった作品でもあります…(^^;)『パンズ・ラビリンス』はなんかイタそうな話っぽいので避けてました。(やっぱり「見るのがつらい映画でもある」とおっしゃってますね)いつか心が頑丈(?)な状態のときにでもトライしてみますかね。
『ヘルボーイ・ゴールデン・アーミー』はちょっと見てもいいかな、と思ってたので、機会があったら見てみようと思います。こちらは気楽に見られそうですね。(笑)

 

 

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