テッド・チャン情報メモ

BuzzFeed寄稿記事と対談ビデオ
(2018/1/19)

 

BuzzFeed寄稿記事

インタビューではなくご本人の寄稿記事です♪コミケ前の忙しい時期に見つけたもので遅くなりましたが、ようやくリンクを記録します。(バズフィードってあんまり読んだことがなくて、なんとなくもっと軽いというか、ネタっぽい記事専門のイメージを勝手に持ってました。こういう記事も載せるんですね)

BuzzFeed: Silicon Valley Is Turning Into Its Own Worst Fear

タイトルは直訳すると「シリコンバレー(の企業)は、それ自体が、彼ら自身のもっとも怖れるものになりつつある」。日本語にしにくいタイトルです。大雑把に意訳でまとめると、

「AIの暴走が怖れられているけれど、本当に恐ろしいのは(IT)企業の仁義なき資本主義の暴走。AIの脅威が取りざたされることで、そこから目をそらされているのでは? 企業はそこを直視して軌道修正していくべきだ」

という主張で、とても、とても共感しました。特に印象的だったところだけ拙訳置かせていただきます。

もちろん、企業はそれ自体で自律的に動いているわけではない。責任を負う人間たちは、おそらくは洞察力を持っている。しかし資本主義は、その洞察力の行使に利益で報いたりはしない。反対に資本主義は、 「良いこと」の意味を「市場が決めたものならなんでも」に置き換えることを要求し、人が本質を見通す力をせっせと蝕んでいる。

…と、ここまで書いて仕上げられずにいた間に、日本版サイトにも翻訳が掲載されました!全体訳されているのでぜひこちらを、ごゆっくりどうぞ。

BuzzFeedJapan: シリコンバレーが警告するAIの恐怖、その本質を「メッセージ」原作者が分析

 

対談ビデオ

もう一つはYoutubeで見つけたビデオ。上記の寄稿より前の11月に公開されていたようなんですが、見つけたのは最近です。ロバート・ライトさんというジャーナリスト/サイエンス・ライターとの対談で、ライトさんが主催者の一人になっているBloggingheads.TVというサイトのコンテンツです。

Free Will, and the Nature of Time | Robert Wright & Ted Chiang [The Wright Show]

テーマは『自由意志、そして時間の本質』。一時間半もあるので嬉しいですが、残念ながらまだ聴き取り難民なので(^^;)、自動生成の字幕に頼りつつ荒く目を通したところで、すべては理解できていません。

それで全体の要約はできないのですが、Youtubeの説明に目次(?)があるので拙訳を加えて貼らせていただきます。

01:33 How Ted's Story of Your Life became Arrival
    (『あなたの人生の物語』から『メッセージ』への経緯)
26:32 Experiential and theoretical grounds for determinism
    (決定論の経験的・理論的根拠)
33:58 If the future is set… Why bother?
    (もし未来が決まってるなら……何を気に病むことがある?)
54:02 The Predictor—an imagined device that will freak you out
    (プレディクター――あなたをパニくらせる架空の装置)
63:24 Wormholes and time travel
    (ワームホールと時間旅行)
84:27 Are free will and determinism compatible?
    (自由意志と決定論は両立するか?)

記憶に残ったところを少し。(記憶頼りなので、「こんな感じのことを言ってた」程度のメモと感想です)

◆『メッセージ』後も兼業のお仕事(プログラマー向けのコンテンツを書くテクニカルライター)は続けているとのこと。…そーかあ、生産ペースの向上は望めなそうですね。(笑) でも専業になるのがいい方に出るとは限らないし、この方もこれまでを見るとそういう(専業になってがしがし書きたいぜ!とゆー)タイプではない気がしますよね。でも経済的にも、活動ペースをコントロールするという意味でも、より大きな自由度を確保できるようになられたのでは、と想像しています。(そして勝手にうらやましがってます(笑))個人的にはこの方の「ものの考え方」「ものごとのとらえ方」「それを言語化するときのスタイル」自体が好きなので、今回の寄稿みたいなフィクション以外の、文化人的な(フィクション執筆より負担が軽そうな)ご活動でちょいちょい拝見できると嬉しいなーと思います。

◆『メッセージ』について――ルイーズの最後の選択は、それによって子供が病気に苦しむことになるので、倫理的な問題をはらんでいるのでは?というライトさんの指摘。なるほど、と思いました。回答は「その通り。小説では(子供の死因が違うので)そういう問題はないけど」。それもその通り。でも、映画版でそのへんは放置されていたわけではないですよね。たぶんルイーズとイアンが別れた理由がそこなんじゃないかな、と見ていて思いましたし。そして「そうなることがわかっている子供をあえて作るなんて」とイアンが怒ったとしても、その気持ちもわかる気がする。(これはライトさんの考え方に近いですね)でもそのへんは倫理として線を引くのは難しいと思いますし、ルイーズの気持ちもすごくわかります。(たとえば出生前診断で子供が病気を持っていることがわかったら?という問題ともつながってきますよね)

◆以前『Nature』に掲載された『What's expected of us』について。(ライトさんもそう言ってますが、Nature誌にフィクションが載るって珍しい印象がありますね)

これはプレディクター(predictor――「予告/予言装置」、とでもしたらいいでしょうか)という架空のデバイスをめぐる、自由意志についての思考実験のような短編です。プレディクターはボタンとライトがついた小さなおもちゃみたいな装置で、ボタンを押す一秒前にライトがつきます。なんとか機械を騙そうとしても絶対にできません。そしてこれにハマった人がどうなるのか――ストーリーというよりその過程の説明が読みどころですが、今回読み直してみたら、最後の一行(これは秘密)で鳥肌が立つほど……なんて言うんだろう。感動とも恐怖とも違うんですが、両方含まれているような…とにかく「ズキューン」とやられました。ハイ。『理解』の最後の一行にやられたのと似ているけれど、こちらの方が強力でした。しかもすごく短いのに!
(正直、前に読んだ時はぜんぜんそんなことなかったんですよね……むしろ自分のなかでは「チャン氏の作品では印象薄い一本」だったんですが、なんでかな。自分が変わったんでしょうか)

自由意志については、以前ウェブでのレクチャーでもテーマにしておられましたし(感想はこちら)、他でもよく言及してらっしゃる印象があります。かなり興味をお持ちなんでしょうね。

でも、人が「こうしよう」と意識する前に、そうするために筋肉を動かす信号はすでに脳から出ている、という研究結果が知られていて、この作品のプレディクターはその信号を拾ってるんだよね?と思った記憶があります。(作品の中ではそのからくりは言及されなくて、それによって人間が受ける影響のほうを「思考実験」しています。普通SF作品だとからくりの説明のほうに力を注ぎそうですが、そのへんもチャンさん節かな?)
ライトさんがまさにその点を指摘したところ、本人が意識しない場合も予告できるとのことでした。たとえば何かランダムにボタンを押す機械を作ったり、うっかりボタンを押した場合もそれを予告できる装置。この予告/予知は「逆方向のタイムラグ(Negative time lag)みたいなもの」だとおっしゃっています。本文でも"negative time delay"と表現されていますね。

【追記:ここまで邦訳が出てないと思い込んで書いてたんですが、今念のためにググったらSFマガジンのチャンさん特集号に『予期される未来』のタイトルで載っていたようで、しっかり自分でも感想書いてました!スミマセン!(^^;)
SFマガジン テッド・チャン特集 感想 (2007/11/24)
やはりその時はぜんぜん「来なかった」ようなんですが、何でかなあ?今回原文で読んだためでしょうか。もしかしたら、先ほどの「意識する前に出ている信号をキャッチしてるだけだよね?」と思ったことが大きいのかも。とにかく自分の記憶力のなさが実証されたのは確かです。失礼いたしました!m(_ _)m)】

*      *      *

全体に、ライトさんの視点のほうが問題を「命題」としてとらえていて、チャンさんのほうはすこし幅を持たせた「人間の問題」としてとらえている、という印象がありました。噛み合わないところもあったように見えましたが、どっちがいい、悪いではなく、「議論を深める」ってこういうことの積み重ねなのかも。

このキュートなおじさんロバート・ライトさんは、調べたところ『モラル・アニマル』など邦訳書もあり、ベストセラーも出したことがあるライターさんなのでした。(フィクションでない場合もよく「作家」と書かれますが、自分は作家と聞くとフィクション作家さんを思い浮かべてしまうのでライターさんとしておきます)この対談ビデオシリーズでは、メディテーション系の有名人ディーパック・チョプラさんなんかとも共演していて、仏教を扱った著書もあります。現代的な目線で哲学や倫理、心理学あたりを料理なさっているのかな…? ちょっと読んでみたいです。

TED(講演シリーズの)にも登場歴があったので一本見てみたんですが、ちょっとシニカルでとぼけたユーモアのある語り口です。ビデオでは、にこやかなチャンさんとは対照的にふてくされているように(笑)見えますが、そういう芸風の人みたい。『メッセージ』で言及された「ノン・ゼロサム・ゲーム」がテーマと思われる『Nonzero: The Logic of Human Destiny』という本も書いてらっしゃるので、読んでみたいです。邦訳出てくれないかなっ♪

会話の中に出てきた「両立主義」(Compatibilism)という、初めて聞いた言葉に興味が湧きました。調べたら「決定論と自由意志は両立する」という考え方のことだそうで。チャンさんの作品では繰り返しテーマになっているなあと。他にも初めて聞く言葉とか名前とか出てくるので、少しずつ攻略しようと思います。(正確なトランスクリプトがあると楽なんですけど。自動生成の字幕はけっこうアレなので…(^^;)まあ速度を変えて聞いたりしながら、推理して埋めていこうと思います。いい勉強になりそうです(笑))

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