テッド・チャン情報メモ

The Great Silence
(2015/5/20)

 

ちょっと長いですが、新作コラボ作品とその背景、本文ページへのリンク、冒頭拙訳、レビュー記事のご紹介など記録します。感動的な作品です!


プエルトリコ出身のビジュアルアートデュオ、Allora & Calzadilla(Wikipedia: Allora & Calzadilla)のビデオインスタレーション、"The Great Silence"(2014)のためにテキストを執筆なさったとのことで、そのテキストが先日ネットで公開されました。コラボ作品で小説でもありませんが、ファンにとっては立派に「新作短編」だと思いました!(泣けた…!)

内容はフィクションではなく、事実や実際にある仮説を鳥の口から語らせる、という形の寓話です。こういう意味の「ライター」としても優秀でいらっしゃることを見せつけてくれました。下記のページで公開されています。

The Great Silence text by Ted Chiang

(右上の「Day 3」をクリックすると、テキストの一部が印刷されたオブジェ(というか看板?)の写真があるのですが、ベネツィア・ビエンナーレで展示されてるということなんでしょうか。オブジェ下に「全文はこのサイトで読めます」的なことが書かれてるようなんですが…ビデオそのものは参加してないのかな…??? このe-fluxという団体のサイト、動作がオシャレすぎて自分のよーな者にはかえってわかりづらいです。(^^;)というか、今細かく読む時間がないのでこんな説明ですみません!)

文末の紹介文を訳しておきます。

アッローラ&カルザディッラのビデオインスタレーション"The Great Silence"(2014)は、世界最大の電波望遠鏡を中心に据える。プエルトリコのエスペランサにあり、ここは絶滅の危機に瀕しているAmazona vittata(アカビタイボウシインコ。作品テキスト中での呼称はプエルトリカン・パロット)の生き残りが住む場所だ。この作品のために、アッローラ&カルザディッラはサイエンス・フィクション・ライターのテッド・チャンとコラボレートした。彼が書き上げた寓話は、生命、非-生命、人間、動物、科学技術的な行為、そして宇宙的規模で見た行為の間にある、単純化できない間隙を深く考察する。

小難しいこと抜きにしてほんとに感動できます❤ Allora & Calzadillaは「リサーチに基づいた作品で知られている」、ということなので、素材は文字通り「コラボ」だと思いますが…「フェルミのパラドックス」なんかいかにもチャンさんぽいし、プエルトリコ出身のアーティストさんが天文台とそのすぐ近くにいる絶滅危惧種のアイロニーを題材に…とかは想像しやすいんですが、どれが誰のネタとか言うのは野暮かもしれない(笑)。とにかく、シンプルで泣ける文章の感触はみごとにチャンさん節で、"Exhalation"に読後感が似ていました。(個人的には、チャンさんの作品で一番好きなタイプです♪)

本文は短いので読みながら全訳してしまったんですが、ページにコピーライトマークが明記してあるので、引用の範囲で許していただけそうな分量に絞って、冒頭の数行だけ拙訳を貼らせていただきます。扱われてるモチーフも調べたらいろいろ魅力的だったんですが、ある意味ネタバレになっちゃうのでグッとガマン。(^^;)

とにかく、これだけのシンプルな文章で、対照によるスケール感と独特の情緒がみごとにセットアップされてる感じがします。(一人称を暫定的に「僕」にしましたが、性別不明です。)

 


 

『大いなる沈黙』  テキストBy テッド・チャン

人間たちは、アレシボ天文台を使って地球外知的生命体を探している。接触したいという彼らの欲求はとても強く、宇宙の彼方の音を聞きとれる耳を創ってしまったほどだ。

しかし、僕や仲間のインコたちはすぐここにいる。なぜ彼らは僕らの声を聞こうとしないのだろう?

僕らは人間とコミュニケートができる非-ヒト型種族だ。まさに人間たちが探しているものじゃなかろうか?

宇宙はとてつもなく広大で、知的生命体は確かに何度も生まれているはずだ。また宇宙はとても古く、たとえ科学技術を持った種族がたった一つでも、それが銀河に広がり、満ちるに足る時間があっただろう。にもかかわらず、地球以外のどこにも生命のしるしはない。人間たちは、これをフェルミのパラドックスと呼ぶ。

フェルミのパラドックスに対して出された一つの解答は、知性を持った種族は、敵意のある侵略者に狙われることを避けるため、自らの存在をあえて隠そうとする、というものだ。

人類によって絶滅寸前まで追いやられてきた種族の一員として言えば、それはじつに賢い戦略だと断言できる。

・・・・・・

 

(参照リンク:Wikipedia「フェルミのパラドックス」


 

【レビュー】

このビデオインスタレーションを含むAllora & Calzadillaの展覧会の、アート情報サイトでのレビュー。この作品が(「テッド・チャンが書いた字幕のおかげで」と明記して)展覧会で一番感動的、と評されています。テキストだけ読んでも充分泣けましたから、そりゃ感動的だろうな…。見てみたいものです!(↓写真にある緑色の鳥が語り手のインコですね)

ART NEWS: ALLORA & CALZADILLA AT PHILADELPHIA MUSEUM OF ART & FABRIC WORKSHOP AND MUSEUM

(The Great Silenceの評部分の訳)

別のフロアで上映されている"The Great Silence"(2014)は、プエルトリコのエスペランサにある世界最大の電波望遠鏡と、その周囲を取り囲む森に住む、絶滅の危機に瀕したインコを題材にしたビデオ作品だ。添えられた字幕のおかげで、この展覧会で一番感動的な作品になっている。字幕はインコの視点で書かれたもので、サイエンス・フィクション・ライターのテッド・チャンが担当した。

…余談ですがこの『The Great Silence』ってタイトル(作中では「フェルミのパラドックス」の別名として出てきます)、クラウス・キンスキーが出たマカロニ・ウエスタンの『殺しが静かにやって来る』(1968)の英語名と同じですね…。(この邦訳タイトルもいいセンスですけど❤(笑))いや、ほんとに関係なかったです。ぶち壊しなこと言ってスミマセン。(^^;)

 


 

…『あなたの人生の物語』映画化のほうは、エイミー・アダムスに続きジェレミー・レナーやフォレスト・ウィテカーといったメジャーどころの名前がちょっと前に流れてましたね…こちらをいちいち追ってるとただの芸能ニュース欄になっちゃいそう。(笑)こんなことになるとは思いもしませんでしたねえ…ファンとしても。

映画と小説は表現として別物だから、「イイ」要素が共有できないこともありますよね。脚色映画には、原作にないもの=映画とするには不足しているもの、を補って成功した例もあります。『L.A.コンフィデンシャル』とかそんな例だと思います。(心理的ターニング・ポイントになる「ロロ・トマシ」は原作に出てきません。あれは見事な工夫でうなりました!)

原作とはベクトルさえきちんと共有できればいいと思うんです。細部が原作に忠実かどうかでなく、映画として見ごたえのあるものになってほしい……。映画好きとしての願いでした☆

 

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