お試し読み
My Dearest Undead
目次 【コメディ小説】My Dearest Undead 小説はリー御大の訃報が出る前日に脱稿していたコメディです。カッシング丈が昔もらったファンレターの話に絡めて、ファンは自分とリーがまるでウィスタブル(カッシングが住んでいた町)の地下で一緒に暮らしているように思っている、ラブリーだ、と微笑ましい話をしていたのがイメージ元で、ベタに「フランケンシュタインとドラキュラが同居」です。リアルネタも織り込んだ腐女子目線のパロディになっています。 後半少し感傷的なところがあり、このタイミングではシャレにならない部分もありますが、ラストはなんとなくこの時期でもよさそうな気がするので、このまま出すことにしました。悲しい時期ではありますが、できるだけ楽しく読んでいただけたらと願っております。 ほかに小説のもう一つのイメージ元になった『Vicous』(イアン・マッケラン、デレク・ジャコビがゲイの老カップルを演じるシットコム)のご紹介や、急遽クリストファー・リー追悼記事なども入っています。 |
My Dearest Undead …そろそろバレそうだ。リアルドラキュラとか言われ始めているし――。 『クリストファー・リー、ニューアルバムリリース』の文字が、おどろおどろしいフォントで表示されている。ついている画像は数年前の写真とCDのジャケットデザインを合成したものだが、なかなかいい出来だ。レビューも敬意にあふれていながら、お世辞でない評価を楽曲に加えている。この記事は合格だ。…しかし記事についているコメントが気になった。そう、軽薄な一般人の反応はこういうところに表れるのだ。 『クリストファー・リーって、本当に不死なんじゃないの?(笑)」 ここ数年、この手のジョークが増えた。無理もないのだが。 ドラキュラの一目惚れで無理矢理伴侶にされてしまったヴィクター・フランケンシュタインは、もちろん当初激昂した。彼自身年をとらず日の光を恐れる身となり、人間社会に帰ることもできなかった。ドラキュラを殺そうとしてそれがかなわないとわかったあとは、鬱に陥ってハンストをして死にかけた――正確には吸血鬼=不死者(アンデッド)となった時点で一度死んでいるのだから、二度目の死とでも言うべきだが――とにかくドラキュラはヴィクターをなだめるために彼が望むだけ資金を提供し、ヴィクターは道楽の研究に没頭することで生気を取り戻した。(二人のここに至るまでのいきさつには、ちょっとしたヘレン・ケラー物語並みのエピソードがてんこ盛りだ。それについては「クリストファー・リー」の「死後」百年経ったら発売される予定の告白本、『ドラキュラの真実』で明かされる……かもしれない) ヴィクターは、やがて完璧な人工血液を開発した。半ばは自分が定期的に生き血を飲むのがいやだったからだ。自分で人を襲ったことはなく、ドラキュラが雛にエサを運ぶ親鳥よろしく調達したが、それもいやだった。いくらバカラのグラスに入れても生き血は生き血だ。 とにかく素晴らしい発明だったが、ドラキュラにとっては福音と呪いがワンセットで来たようなものだった。「天然もの」の生き血を飲むと腹を下すようになったうえ、無理にそうすると再び日光アレルギーが出てしまう。おかげでヴィクターのホームメイド血液が欠かせない身となり、二人の立場は逆転しそうになった。 …とにかく、ドラキュラ伯爵は昼日中(ひなか)の活動が解禁となり、人生から閉め出していたさまざまな楽しみを謳歌してきた。たとえば偽名を使って俳優になってみるとか、若者のバンドと組んでヘビメタアルバムを出してみるとか。 ヴィクターがそっぽを向きながら聞いた。 ヴィクターは、すたすたと彼の研究室に向かって歩き出した。ドラキュラがはっとして言った。 …(後略)… |