お試し読み
流星:SF・微JUNE掌編集
目次 流星 清掃局のふしぎなロボット ―箸休め― 杉野くん
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本文サンプル(『流星』冒頭部分)
流星
丘のうえで、僕の幼い息子が夜空を見上げている。田舎の澄んだ空気越しに、まき散らしたような星が見える。近くの民家はうちだけだから、邪魔する光もない。息子は白い息を吐いて、無邪気に叫んでいる。 ――――――――――――――― 検閲を通った彼からのメールが届く。彼はいつからか、映像つきの通信をしなくなった。僕には今の彼が、どんな姿をしているか想像がつく。僕はその姿を頭の外に押しやって、昔の彼を思い描く。よく笑う、血色のいい、つかみどころのない男。 信条が違うからこそ、そうできる。僕らの言い分はまっぷたつだ。彼は志願して[[rb:神経強化 > エンハンスト]]した戦闘機乗り。僕は生理学者で、神経強化反対運動で投獄されたことがある。その運動を通して、僕は妻になる女性と出会った。 彼と僕はもう、互いの信条に関わることは話さない。だから僕らのやりとりは、単語から思想を監視する自動検閲をすり抜ける。 過去に一度だけ、面と向かってそれを話したことがあった。いつもは気楽なことばかり言う彼が、自分は最先端の科学を体験しているにすぎないと言い、やがては愛国心だと言った。僕は愚の骨頂だと切りすてた。最後は殴り合いになった。彼とそんなことになったのは一度きりだ。 それ以来、僕らは話すとき自分のどこかのスイッチを切る。互いに深くは踏み込まない。いや、たぶんずっと前からそうしている――。 『君たちにこそ、こういう玩具(おもちゃ)が必要だ。 「また光った!」 ――――――――――――――― 息子を授かったとき、彼は祝福してくれた。どこかのスイッチを切ったまま。 ――――――――――――――― 『このオモチャに接続(つな)がれてると、 そしてぽっかりあいた空間に出ることがある。 ――――――――――――――― 初めてデモに参加した日、こんなことは意味がないと悟った。こんなやり方じゃ。だから仲間から逃げるのかと罵倒されながら、僕はここに移り住んだ。ここで続ける。政府(やつら)が間違っていると証明する。彼は気づいているのだろうか。僕が彼のよもやま話を、すべてデータとみなしていると? 彼は自分の映像を送らない。それでも僕には変わり果てた姿が目に浮かぶ。痩せこけて、真っ赤な目は落ちくぼみ、つやのない灰色の肌に、静脈が青く浮きでて見えるだろう。政府が隠す神経強化兵士の画像を、僕はたくさん見すぎた。ドラッグで恐怖を封じられ、コンピューターにつないだ神経を引き金(トリガー)にした兵士たちは、戦闘の高揚感にひたすらのめり込む。使い捨てられるアドレナリン中毒者(アディクト)たちの末路を、政府は捏造したデータで否定する。恐怖と無縁の彼のメールはいつも上機嫌だ。 『気に入ってる小話があるんだ。 僕は彼を救えない。そんなことは彼も望まないと知っている。…… (後略) |