お試し読み
蛮族の王
―陵辱される太陽―
目次 短編小説 随筆 あとがき |
短編小説 (38p)
『王殺し』
時代は十九世紀。
イギリスの学術調査団が、南米奥地に住む幻の部族を訪ねる。
一行を
率いる初老の研究者キャバリエは、
その部族を統べる
若き王と念願の対面を果たす。
いっぽう、キャバリエを父と慕う青年マイヤーは、
その部族が儀式に使う香カハワキヨを手に入れるため
神官に取り入り、本来「異国人」には許されない託宣の儀式を受ける。
その行為はキャバリエとマイヤーの関係を狂わせ、
やがては王の運命を狂わせる――
随筆(8p)
『〈蛮族の王〉への視線―【ロイヤル・
ハント・オブ・ザ・サン】をめぐって―』
この本を作るきっかけになったインカ帝国征服映画
『ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン』をご紹介しつつ、
蛮族を見る征服者=白人男性の矛盾した二つの視点と、
ファンタシーの対象としての「蛮族の王」を
JUNE目線でマジメに(?)深読みします。
イラスト(トビラ)見本
本文見本 (『王殺し』冒頭部分)
一 その夢の中で、彼は少年だった。見慣れた子供部屋の壁紙。机のうえにはインク壷と、緑色の革で装丁された数冊の本が置いてある。父にせがんで買ってもらった、未開地方の探検の本だ。父は毎晩決められた時刻に、子供部屋のガス灯を消してしまう。少年はこっそりロウソクをつけて、それらの本を貪るように読んだ。 …彼は、ロンドンを出たのが何ヶ月も前であることを思い出した。ポーツマスから船に乗り、海を渡り、河をさかのぼり、山道を歩き…それは長い道のりだった。
その部族の存在が最初に確認されたのは、この地に黄金を求めてスペイン人たちがやってきた十六世紀のことだった。その膨大な手記や年代記に、彼らの痕跡を見ることができる。なかば伝説のようなまゆつばものの記述もあり、対照すれば矛盾する箇所がいくつもあった。 「…起きておられますか?」
二 ロバート・マイヤーは、控えの間にむせるほど焚かれた香を分析したくてうずうずしていた。嗅いだことのない香りだった。伝説の香カハワキヨはこれだろうか、と期待がふくらんだ。香りはみごとな石組みの壁にも滲みこんでいるように思われた。 王は若かった。見た目どおりなら二十代前半の青年で、キャバリエに息子がいたとすれば(彼は独身をとおしてきたのだが)ちょうどこのくらいだろう。体格は大きくはなく、遠目には華奢に見えた。しかし物腰は気高く、高い石の玉座から、異国人を哀れむように見おろした。 …… |
本文見本 (『〈蛮族の王〉への視線―『ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン』をめぐって―』冒頭部分)
…この本に収録した小説を書くきっかけになったのは、Youtubeで拾った『Royal Hunt of the Sun』という映画の一シーンでした。スペインによるペルー(インカ帝国)征服を扱った1969年の映画で、スペインの将軍ピサロと、拘束されたインカ皇帝アタワルパに奇妙な友情がめばえるシーンです。アタワルパ役のクリストファー・プラマー(『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐が胸毛を剃り(!)、黒い長髪で魅力的に演じています)の、予想外の肉体美に萌え狂った、というのが正直なところですが…(笑)。 とにかくこれは買わなくちゃ!と思ったのですが、残念ながら日本では『ピサロ将軍』のタイトルでテレビ放映しただけだそうで、DVDが出ていません。あきらめきれず、海外版DVDと原作戯曲の翻訳(『アマデウス』や『エクウス』でおなじみのピーター・シェーファー作。残念ながら国内では絶版。しくしく)をあたったところ…やはり素晴らしく触発的な作品でした!(腐女子には特に!(笑))作られるのが40年ほど遅ければ、コミケでやおい本がたくさん買えたのに…などとくやしかったり(笑)。 …そんなわけで、ここでは映画と戯曲をおりまぜてご紹介させていただきつつ、魅力的な「蛮族の王」のイメージ…そしてそれを見る征服者(ヨーロッパ人男性)の視線を深読みしてみたいと思います。後半ではイモヅル式にイメージがつながった作品も含めて、このジャンル(?)の魅力を無駄に総括いたします。(笑)少々おつきあいくださいませ。 征服者と蛮族の王 「俺は一体、お前をどうしたらいいんだ?※」 …さて、『ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン』の中では、すでに初老にさしかかっているピサロがペルーへ行くのは名誉を手に入れるためです。 「豚小屋で育った」私生児で文盲の男が、軍人としてのし上がり、地位も財産も得ましたが、彼はそれ以上のものを手に入れたい…ペルーの征服者として名を残したいのです。名声は死後に残るもので、彼の老齢がそれを求めたと受け取れます。彼には妻も子もありません。 そしてその人生を通じて、彼はキリスト教には親しみを持っていません。そのため、同行している宣教師たちとは事あるごとに対立します。彼はインカ皇帝が太陽の息子であり、神を自称しているのを知ると、それに惹きつけられます。
ピサロはアタワルパに直接会う前に、神を自称するインカ皇帝が自分と同じBastard(私生児・庶子。アタワルパは正式な嫡男である兄を殺して王位についた)であることを知ります。そして個人的にアタワルパに興味を抱きます。 スペイン人に会いに来たアタワルパが聖書を投げ捨てたことを口実に、スペイン軍はアタワルパの従者を皆殺しにし、アタワルパ自身を拘束します。そのうえで展開するのが、冒頭でお話しました、ピサロとアタワルパのシーンです。文章でお伝えするのは無理なのを承知のうえで、ちょっとご紹介します。 …… ※(『ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン』ピーター・シェーファー/伊丹十三訳 劇書房刊
以下引用文は同書より)
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