お試し読み
ピーター・カッシング/クリストファー・リー架空共演映画ノベライズ
美老人微JUNEホラー
(ピーター・カッシング生誕百周年・記念改訂版)
恐怖!脳人形の館
―The Horror of Mad Scientists' Love―
(旧版表紙)
目次 改訂版・脳人形の館 おまけのページ・未公開シーン(?) 予告編漫画 おまけ漫画 あとがき ピーター・カッシング/クリストファー・リー |
小説内カット見本
おまけ漫画見本
小説オープニングページ見本
(オープニングだけコマ割りされています)
改訂版小説本文見本 (オープニングから続く冒頭部分約4ページ分です)
…館はオークの森に隠れるように、ひっそりと建っていた。幾星霜を耐えてきた石組は湿り気を帯び、蔦が這い回るにまかせた壁が、訪問者を拒むように…そして中にあるものを守るように、そそり立っているのだった。 建物の角には装飾用の古風な小塔があり、頂を巡る胸壁はところどころ欠け、もう百年も打ち捨てられているように見える…ほんのひと月ほど前まで、クリフが住んでいたとは思えなかった。あの快活なクリフが――――どちらかといえば内向的な私を、数々の社交の場に連れ出してくれ、学者仲間の会合では魅力的な主人役を務めた彼が…こんなところに七年間も閉じこもっていたとは。 その責任の一端は私にある。ずっと胸を締めつけていたその思いがにわかに激しくなり、私は歩みを止めて目を閉じた。…だがあのときの私に、いったい何ができたろう? 中に入ると、うら寂しさはいやが上にも増した。玄関の小さなホールにも、ほこりと冷気が淀んでいる。一階をひととおり見て回り、どうやらその階でクリフが使っていたのは二部屋だけらしいとわかった。書斎と、寝室である。二階への階段にはほこりが積もっていたから、使っていなかったのだろう。もちろん一人住まいではそれで充分だったに違いない。 …しかし私はショックを受けた。几帳面だった彼が、使う部屋以外をこんなにも放置し、まるで廃墟に住むような生活を送っていたとは。 書斎として使われたらしい一番広い部屋は、書棚にぐるりと囲まれていた。大きな机とスチールのファイルキャビネットがあり、仮眠用なのか粗末なベッドも入れてあった。彼がよく研究室に泊まり込んでいたことを思い出した…夢中になると、彼は家に帰ることを忘れてしまうのだ。 彼らしく整理された机の上を眺めると、いよいよ生前の彼のことが思い出された。日誌と大きなカードケース…彼にはZから逆に並べる癖があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ピーターもっと笑って!顔がひきつってるぞ!」 学長の邸宅の中庭を借りた、内輪での結婚パーティーだった。六月の空は気持ちよく晴れ、地味ながら美しく装ったヘレンは、薔薇の花束を持っていた。私たちはもう若くはなかったから――二人ともすでに四十代だった――派手なドレスは避けたのだ。しかしヘレンの選んだブルーのドレスは、彼女のゆるくウエーブがかかったブロンドに映えた。私はパーティーの間たびたび見とれたものだった。そしてこれからずっと、彼女がそばにいてくれるのだという喜びと、限りない安堵を感じていた。やさしいヘレン。私の愛しいヘレン。なんと輝いていたことか。 「…君は幸せ者だな」 大戦から十年以上経過していたが、戦時下で損なった体を抱える人びとはたくさんいて、形成外科学でやるべきことは山ほどあった。私たちの研究範囲はその後どんどん広がり、神経細胞まで扱うようになっていった。協力関係はその後ヘレンの死まで…七年前のあの日まで続いた。辛い思い出だ。 私たちは飲み物のテーブルのそばに立って話していたが、私は別のテーブルにいるヘレンを見ていた。学長の長い話をにこやかに聞いている、慈愛に満ちた姿を。…たしかに私は幸せ者だ、という思いが、しみじみとこみ上げた。だがもちろん、そんなことは照れくさくて言えなかったので、こう言った。 クリフは一瞬手を止め、それまでの笑顔が不自然に張り付いた。…私は自分がまずいことを言ったのだと思った。私が知らないだけで、誰かと破局したばかりなのかもしれないと。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 六月のまぶしい光の中から、薄暗い書斎へと引き戻された。…机の上に落ちた黄ばんだ写真はちぎれている。横にいるヘレンの肩先と、胸の高さに持った花束の一部が、切れ目のあたりにかろうじて見えた。 …… |